「に…肉体じゃ…ない…?」

私の落ちそうになった目玉は再び収まるべき場所に戻ったが、今度は瞬きを忘れたかのように静止した。


な…

何…?


肉体じゃないって…?

この人は一体何を…?



彼女は組んだ足を下ろして、私に向かって前かがみになった。


「そう…今、此処にいる私も貴方も………肉体じゃないの。」


な…に…?


「私も…貴方も…肉体じゃ…ない…?」

彼女の言葉を機械的に反芻しながら、私は自分の体を眺めてみた。



右手…右足…

左手…左足…


意識的に体を動かしてみると、それらの部分はちゃんと反応する。


ちょっと待ってよ…

何意味分からないこと言ってるの…?

これが肉体じゃないというなら、いったい何だっていうの…?


自分の両手をしげしげと眺め、彼女の言葉の意味を考える私に、彼女は話しかけた。


「……あのね…今、此処にあるのは精神体なの」


「…せ…精…神…?」


私は自らの両の手から、意味不明な言葉を発した人物に怪訝そうな視線を向けた。

その表情を感じとったのか、彼女は一旦目をそらして少し何かを考えるような仕種をした。


そして再び彼女の視線が私に戻ってきたときには…

彼女の目は幾分か優しくなっていた。