パタン…


再び静まり返る白い病室。

凜と澄んだ空気の中で、ただ小さく心臓の音がしていた。



ふと頭の中に泣き叫ぶ男性の姿が目に浮かんで、心臓が一際大きな音を立てる。




私は…本当に此処に来てよかったのだろうか…。



私はただ自分のためにこの交換条件を飲んだ。

柏木さんや千夏さんがどんな想いをしても、私には関係ないはず…


けれど…耳に残る彼の愛しい人を呼ぶ声が、私に少しの後悔の念を起こさせた。




ねぇ千夏さん…本当にこれで良かったの…?





私は俯いた顔を再び上げて病室を見渡す。

すると花瓶の後ろに小さな卓上のカレンダーがあるのを見つけた。


私はそっとそれに手を伸ばす。


「七月…」


綺麗な海の写真を背景に、カレンダーが印刷されていた。

すると一つだけ赤いハートの印が付いた日がある。




「結婚…式…」


ハートに囲まれた日付は七月二十七日…

丁度あと八日後だった。



彼は…柏木さんはどんな想いでこの印を付けたのだろう…。

ただただ眠り続ける愛しい人の横で…どんな想いで書き込んだのだろう…。




信じて…千夏さんが目覚めるとただ真っ直ぐに信じて

これを書いたのだろうか…。


結婚式を必ず挙げることができると…心から信じて書いたのだろうか…。


なのに…目覚めた愛しい人は結婚式どころか、自分のことすら知らない赤の他人の私…




それでも…目覚めてくれて良かったと…

貴方は思うのだろうか…。