「…交通事故に合って…約一ヶ月の間…意識不明の重体でした…正直…私も少し諦めかけましたよ…」


そう言って穏やかに笑う先生。


「でも…ある日を境に病状が突然回復し出した……限りなく健康体に近いところまでに…我々も非常に驚きました……しかしね…意識が………全く戻らなかった……」


「………」


私はただ黙って先生の話を飲み込んでいた。



「しかし貴方は……こうして目を覚ましてくれた…」


先生はにっこりと笑った。


五十代半ば辺りの紳士的な先生は、笑うと口元にくっきりとした皺が浮かんで、その表情はとても好感を持たせるものだった。



「…彼も…柏木さんも貴方が目覚めてくれるのをずっと信じて待っていました…来る日も来る日も仕事がない時は…片時も離れず貴方の手を握っていたんですよ…?」





……愛する人を信じる…彼の…強い想い……





ギュッと胸が締め付けられた。



「…彼は…少し驚いているだけです…貴方がこうして目を覚ましてくれただけで…彼は心から喜んでいるはずですよ…?」


「先生……」



先生はまた穏やかに笑うと、静かに病室を後にした。