最後の……約束…

「最期」の…約束…




「約束を…約束を守れないまま死ぬのなんて……彼も…彼もすごく楽しみにしてたの…最後に…最後に想い出を作りたいの…」



少し膨らんだ彼女のポケットからは、クシャクシャになった赤い箱が顔を出している。

まるで違う世界にいる彼女の彼までもが、煙草の箱を通じて私にお願いしているようだった。



私はぐっと唾を飲み込み、深く息を吸った。




「わ…私が貴方の身体に入るなんて…そんなこと…出来るの…?」


彼女は私の視線を強く捕らえたまま、深く頷いた。



「貴方の身体に入って…その人と……式挙げるだけでいいのね…?」


彼女はまた視線をそらさず大きく頷いた。



私はもう一度ゆっくりと周囲を見渡す。


審判の…心房…


今私の目に映っているものは…偽物なんかじゃない……。

記憶を失っているのが…何よりの証拠だと痛いほどに分かる…。


ならば…

私が死んでいるのも…

地獄に行くかもしれないのも……………



私はもう一度深く息を吸って言った。



「…地獄になんて行きたくないから……理由はそれだけだからね…」


貴方のためなんかじゃない…私自身のためだからね…

私は少し意地を張った言い方で呟いた。



私の言葉を少しずつ噛み砕いて、その意味を解した彼女は、少女のような優しい微笑みを浮かべた。