聞かないの?聞かないの?

どうして知ってるんだって

思い出したんじゃないのかって…聞かないの…?





また泣きそうになる私の頭に、優しい温もり。


大きな手で、雨に濡れた私の頭をクシャッと撫でる。






「………風邪ひくから……戻ろう……?」


優しい微笑み。


本当は聞きたいはずなのに

本当は期待してるはずなのに


それが私を…千夏さんを苦しめると分かってるから聞かない…。



もうどれだけ…貴方は自分を押し殺すの…?





濡れた肩を優しく抱いてくれる。

大切に

大切に抱いてくれる。


雨はもう霧に変わっていた。

アスファルトはその色を濃くし、所々に水溜まりを作っている。

淀んだ雲から遠慮がちに月が覗く。






ほんの少しだけ明るくなった夜道を、私は誠さんに肩を抱かれながら帰った。