私は、子供を見るような目で見つめる彼女の視線が不快だった。

冷静に…冷静に答えなければ。

けれど、口をついて出た言葉は顔から火がでるほど稚拙なものだった。


「お…鬼がいて…鍋を…」


「ゴホッ!!」


私の答えを聞くなり、彼女は口から大量の煙を吐き出した。

先ほどまでキレイに筋を描いていた煙でさえも、いきなり立ち込めた大量の煙を避けるかのように早々と霧の中へと消えていった。


「コホッケホッ…あははっっっ!!」


咳込んだかと思うと、彼女は涙目になって笑い出した。

サラ…と踊る彼女の髪が、大人びた彼女を少し幼く見せた。



「あ…あの…」


戸惑う私に気付いて、彼女は腹を押さえながら話した。


「ご…ごめんねっ…くくくっ…」


私はしまった…と思った。

ますますガキ扱いされる。

でも…

でも本当に私の地獄のイメージは、鬼がいて、そして鬼たちが鍋を…


「で、その鬼さんたちがグツグツと血の鍋を掻き回してて、悪い人間を煮込むんでしょ?」


笑いで顔を引き攣らせながら彼女が放った言葉は、私の頭の中に浮かんでいた地獄の光景そのものだった。


「な…そ…そうよ…いけない?」


私は自分の顔に血が集まってくるのを感じた。



……死んでるのに。