彼女は少し声のトーンを下げて、深く言葉を零した。



「自分が…誰なのかも…覚えてないのね…?」



ジブン…?

……覚えて…ない…?



身体が全ての感情を投げ捨てた。

真っ白になった心と身体。

思考を失った私の耳に、また深い声が響いた。



「審判の心房で何の審判を待つか…分かる…?」


耳の中に流れ込む彼女の声は、もはや言葉としての意味を持たず、ただの一連の音に過ぎなかった。



何かを思い出そうとしても

何を思い出したいのか

何を思い出したらいいのか……分からない。



彼女は、私の思考力が止まっているのを悟って、話を続けた。



「此処は…死後の世界が決められるのを待つ場所なの」



「死後の…世界…」


私は無意識のままに呟いていた。

目の灯りを失ったまま、ただ無機質に単語を言い捨てる私を、彼女はじっと見つめていた。


「…天国か地獄か。その審判がくだされるの…。」



天国か…

地獄か…?