彼は黙りこくっている。


部活終わりの彼女を呼び止めて、

息を切らして黙っている。




今日はただただ暑い。


なんでも38.7℃の猛暑日。


湿度も相当なもの。


暑いし、
用がないなら帰りたいんだけど。



と言えたには言えたけど、

でも彼の表情は、真剣で深刻だったから、

言う気になんかなれなかった。





彼女は彼を見上げた。


後ろから太陽が照りつけて眩しい。



彼の顔が
日焼けのせいか赤くみえる。






彼はやっぱり黙っている。


彼女は彼が自分を見つめる目を
眺めるようにして見た。




感じたものは、

暑い。




いや、




熱い。






もしかして、

と思いはしたが、


まさか、
と思う気持ちがそれを押さえつけた。



彼の人気は相当なもの。


下駄箱を開ければ、毎日手紙が入っているという噂を
耳にしたことがある。





でも、

と期待してしまって、
罰が悪くなり視線を落とした。





蝉が煩い。









「好きだ」







信じられない一言だったけど、

蝉の声のなかに確かに聞こえた。




返事は決まっている。





笑顔で、


「あたしも、好きです」