「真帆子って、恋人いるの?」


私は冷たいココアの缶のプルタブを開けながら、隣の男を見た。


「いるわけないじゃん」


「ほしくないの?」


「……欲しくないことはないけど……」


アイスココアは私の喉をするりと通り、体の芯を冷やす。


ホットココアが売り切れてたなら、


ホットコーヒーとか、ホットティーとか……


何か無かったのかな。




「じゃあ春までは、ぼくが恋人」


ぼんやりと余計なことを考えていた私は、


男の言葉に飲んでいたココアを吹き出してしまいそうになった。


「……なにそれ」


「いいじゃん、春までってことで」


「春までって……」


「3月になると、少し危ないからね。今月いっぱいまでだけど」


「危ないって、何が?」


「んー……色々と、ね」


今は2月。


たった数十日だけ恋人になろうだなんて、意味がわからなかった。