「お疲れ様〜。」


夜中の空に少し控え目ないくつかの声が響く。

すっかり冷えきった体を暖めるべく、近くの自販機で買った缶コーヒーを一気に飲み干した。

店先で親父さんと話し込む店員。

俺の彼女。

笑顔で手を振り親父さんと別れ、こっちへ向かって歩いてくる。

そして、何も見えないかのように俺の前を通り過ぎた。

俺も黙って後を追う。

携帯を手にした彼女。

黙って歩く俺。

ジャケットのポケットに入れた手の中には携帯。

携帯が震え、着信を告げる。

誰からの電話かなんて確認もせず、真っ直ぐに耳に当てた。


「はい、哲也。」


『はい、沙良。』


「よぉ、元気?」


『まぁね。哲也は?』


「いまいちかな。」


『何で?』


「ぃや、寒くてさ、ちょっと風邪ひいたかな。」


『ふぅん。そりゃ大変だ。』


「沙良、看病してよ。」


『やだよ。うつるじゃん。』


「うつればいいじゃん。そしたら二人して休めるし。」


真っ直ぐに暗い道を歩いていた沙良。

それを追う俺。