そこまで

記憶をたどったところで

自分の衣服が

汚れたままなのに気づく。



「この汚れ落ちるかな・・・。」

とつぶやいてみる。



ジャンパーは既にビリビリに破れていたので

玄関先に放置しているが

その下に来ていた

コットンのセーターとジーンズにも

汚れがへばりついていた。



180を超える長身のトシキだが

個々の部位は決して華奢ではない。



その身体を器用にくねらせて

セーターをたくし上げ

ジーンズも床へ落とす。



Tシャツとパンツだけになったその身体に

無駄な肉は一切ついていない。



スポーツやトレーニングで

鍛え上げた肉体とは違って

実生活の中で

無駄なものがそぎ落とされた身体だった。



洗濯機に

セーターとジーンズを放り込んだところで

また携帯が鳴った。



「またかよ・・・」

とつぶやきながら

画面を確認する。



思ったとおり

メールは

またミカからだった。



「トシキー、何回もメールしてるのにー。なんで返事くれないのー?忙しいのぉ?今夜はもう仕事終わったからヒマだよー。メールしてねぇー。」



顔文字やら絵文字やらが

ふんだんに使われていて

見ているだけで

胸が悪くなりそうだった。



それでも

「返信」のボタンを押して

洗濯機の水槽に洗剤を入れながら

内容を打ちこんでいく。



「ごめん。今夜はちょっと会えない。またメールするから。」



「送信」のボタンを押すと

画面が切り替わって

封筒が宙に舞う。



トシキはメールも電話も

好きではなかった。



でもこの画面だけは好きだった。



封筒の絵が飛んでいく

ふわふわとした雰囲気が

なぜかトシキの心を和ませた。