トシキは

かつて「シュンちゃん」だった人は

今は「横井さん」なのだと

自分に言い聞かせた。



トシキが黙っていると

この喫茶店のドアが開いてまた鈴が鳴った。



「おぅ、青野。こっちだ。」



横井が軽く手を挙げた。



「どうもっす。」



青野と呼ばれた男は

すさまじい巨漢だった。



身長はそれほど高くない。

せいぜい170程度だと思われるが

横幅が凄かった。



顔、首、胸囲、ウエスト、でん部、太もも、足首にいたるまで

トシキが今まで見たことのある

誰よりも太かった。



そして何よりも

その肉ばかりの顔の中で

眼だけが鋭く光っていた。



鋭利な刃物を

連想させる眼つきだった。



「こいつはトシ。こないだ話したろ?」

と横井が言った。



「あぁ、はい。よろしく。」

と最後の言葉は

トシキに向けて発せられたものだった。



「よろしく。」

とおうむ返しで

返答するトシキ。



「じゃあ行くか。青野、例の道具ちゃんと持ってるだろうな?」


横井の問いかけに

無言でバッグを開いて中を見せる青野。



中の鈍く光る工具が

チラッとトシキにも見えた。



トシキの胸の奥がずーんと

重くなったような気がした。



なにかとてつもなく不吉でよこしまなものに

巻き込まれていく予感がした。