何より、誰も英樹の存在を知らないことがありがたかった。

 ここに座っていると、淡い感覚ではあるが、幸福感がある。

 英樹のせいでフィルターを通してしか見えなくなっている現実にも、生身で触れられそうな気がする。

 でも、その反面、怖くてたまらなかった。

 英樹はいつも、浩之の一番大事なものを、壊してきたから。

 トラウマだろうか。

 ここにいる自分まで、失わされそうな気になる。

 もう、英樹はいないのに。

 ノートの上を這いまわる、みみずののたくったような字を、解読しにかかった。

 と、