無機質な女の人の声が、あるじの留守を告げだした。

浩之はほっとした。

電話の音を無視し続けるのは、けっこう精神力が必要だ。

電話のコール音が鳴ると、迅速に受話器を取らなければいけない気になる。

そういう風に、行動が体に刻み込まれている。

パブロフの犬状態だ。

そうやって、自分も電話に飼いならされている。

『浩之?いないの?』

予想通りの声が、電話から流れ出した。

母上だ。