さっき自分で注いだ、紅い色を眺めていた。 カップの白い内側に映える、茶色に近い透明な紅。 その表面を、白い湯気がゆったりとなでるように這う。 色を楽しむために広く作られた口の中で、ここの紅茶の綺麗な色の上を存分にのたくって立ち昇っていく。 「聞いてるの?」 その声に、現実に引き戻された。 近所の喫茶店、苺畑に浩之はいた。 テーブルを挟んだ向かいに、篠崎さんがいる。 茶色い、肩までの髪を真っ直ぐに垂らせた、ハッキリした顔の美人だ。 ただ、もう今年で四十近い年齢のはずだ。