頭を上げると、真っ直ぐに伸びた木の幹が空に向かってひしめいているのが見える。
 
何の音も無い中で、目を閉じる。
 
自分の周りにあったものが、全て消失したような錯覚に襲われて、目を開ける。
 
世界はまだ、そこに存在していた。

薄暗闇に、木が浮かんでいる。

木の向こうの開けた場所から、下界の、街の明かりが見え、その光が、この場所を暗闇から守ってくれている。
 
もう一度目を閉じて無音と戦う。
 
次の瞬間には世界がなくなっていそうな感覚に襲われる。
 
この闇から助け出してくれる人は、もういない。
 
浩之の胸の上で、ネックレスが揺れた。