3年生になっても、あたしはあのひとと同じクラスになれました。
もう、あのひとには、あたしの好きな風を感じることができません。
そして、その日は、突然やってきました。
やっぱり、2学期の途中、そろそろ秋の気配を感じる風が吹き始めるころでした。 
朝のホームルームの時間に、あのひとは教室の前に立って、みんなに別れの挨拶をしていました。
あのひとは、やってきた時とくらべると全然元気がなくて、まるで空気が抜けた風船のようにしぼんでしまったように感じました。

通り一遍のあいさつが終わりました。 
その時、あたしは、あの心地よい風を肌に感じていました。 だから、あたしは立ち上がって、開けっ放しだった教室の大きな窓を急いで閉めました。

この風は、絶対にこの教室から出したくありませんでした。

 だって、 あたしは、その風に優しさを感じていました。
 あたしは、その風に抱かれてみたいと思っていました。
 あたしは、その風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみたいと思っていました。

あのひとは、そんなあたしの姿をちらっと見ると、大きなスポーツバッグを持って、ほとんど無表情で教室から出て行ってしまいました。
あたしのことを、クラスメートが不思議そうに見ていましたけど、そんなことはかまいませんでした。
徐々に、あのひとの風が教室から消えていってしまいました。
なぜだか説明はできないけれど、あたしは教室から出て、あのひとの後を追いかけました。