朝靄が辺りを覆い隠し、太陽さえもまだ昇っていない朝の事。

宿舎の門の前では、なにやら四つの人影が話をしていた。


「――…なにもこんな朝早くから発たなくてもいいんじゃないか?」

 腕を組み、一人の男…民の族長が、水色の髪の青年に訊く。

「時は一刻を争う事態だと思いますし、この位に発つのが妥当かと」

水色の髪の青年はにこやかに答えた。
その隣には白銀色の髪の少年。

「そうか…では道中気を付けて。王国に着く前にくたばったら意味ないからな」

「わかっています。それでは」

 青年は軽く会釈をすると、少年とともに王国への道を歩いて行った。


「――行きましたね…本当にあいつら、ドラゴンなんて倒せるのでしょうか?」

族長と共に宿舎へ戻ろうとする男が族長に尋ねる。

「倒せたならばきっと、あいつらは英雄だな。
…でもまあ、あいつらが死んだところで我々には何の損失は無い。
上手く行こうが行くまいが、こちらには都合がいい」

「…そうですね」

ニッと笑う族長に男は相槌を打つ。


――まだ太陽さえも昇っていない朝の事。それぞれの思いを持ち、双方の姿は冷たい朝靄の中へと消えていった。