他の男の話をしてしまい、
都合が悪いのか、

 由美は一旦話しを
そらして、
 
 別の話をした後、
 また、昔の話しをしだした。
 
 「話を元に戻すわね。
 私、あなたが静かに階段をあがるのを
感心して見ていたの。

 そしたら、あなた、私の部屋の前にくると、
そこに荷物を置いて、

 『じゃあ、また、連絡する。』

とそれだけ言うとさっさっと帰ってしまったの。

 私、そのとき唖然としちゃって、

ろくにお礼も言えなかったの。

 だから、夜遅いってわかっていたけど、
あなたが家に着くのを見計らってお礼の電話をしたわ。

 そしたら、あなた、ただ一言、

 『わざわざどうも。』

だって。

 私、本当いってもっとなにか言って欲しかったわ。

 でも、あなた、そう言ってすぐ電話を切らないで、

私が電話を切るまで受話器を持っていてくれたの。

 つまらないことだけど、嬉しかったわ。

 その時かな、

あなたに決めちゃおうかなって思ったのは。」

 由美はそう笑って言った。

 「ふーん。そんなもんかね。」

 吉野はわざと素っ気ない返事をした。