その後、吉野は三人の女と付き合った。
 
 しかし、吉野の心の奥には依然サクラナがいた。

 吉野にとって、
 理想の女性とは別れる前のサクラナそのものであった。

 だから、自分の付き合っている女とサクラナとを比べ、

 無意識的にサクラナと同じものを要求してしまう。

 しかし、サクラナは一人しかいないのであるから、
そんな要求が通る訳はない。

 女の方で、吉野のそんな態度に気付けば、
自然と去って行く。

 こうして、吉野の交際はいずれも長くは続かなかったわけである。
 
 吉野が四人目の女と別れたとき、吉野は思った。
 
 人間の中には一生の間に
たった一人の人間しか愛せぬものがいるという。

 しかし、そんな人間でも、愛していない人間と結婚して、
結構、幸せに一生を過ごすという。

 自分ももしかしたらそんな人間の一人かもしれない。

 そして、自分が愛せる人間は“サクラナ”だったんだ。
 
 吉野は、それ以来、
恋愛と結婚とをまったく別のものとして割り切った。

 こう思い込むことで一方ではサクラナを忘れることができ、
他方では結婚という一つのステータスを得ることができる
と考えたからである。

 やがて、吉野は由美と見合をし、彼女と婚約するに至った。
 
 こうして、吉野はサクラナを忘れかけていた。