池田は、

 「おはよう。今日は早いね。」

 と言いながら、

鼻をくんくんさせて吉野の顔を見た。

 「おまえもまんざらじゃないね。
まあ、とにかく頼むよ。」と 

 いやったらしい笑いを浮かべた。

 吉野は内心、人が死ぬ気で写真を貰いに行くのに、
いい気なもんだ、と思ったが、口には出さず、

 「任しておけ」と見栄をはった。

 それから、二人はA組の教室の前まで行くと、
話をすることもなく、
ただサクラナが登校するのをじっと待った。

 40分ぐらいして樫が弘子と一緒に登校した。
 吉野はサクラナの方に視線をやると
小声で池田に合図した。

 「あの子だね。」

 「ああ、宜しく。」 

 池田はそういうとその場を去ってしまった。

 吉野は樫に近づくと、

 「あのー、誠に恐縮でございますが…。」

 と馬鹿丁寧に声をかけた。

 すると、弘子が、 

 「あっ、あなたE組の吉野君でしょ?」

 と横から口を出した。

 「あっ、はい。どうして僕のことを」

 「あなた長尾塾に通っているでしょ。
私もそこに通っているの。
で、あなた、いつもそこでいい点数とって
名前を張り出されているでしょ。
だから、知っているの。」

 すると、樫が吉野の顔をまじまじと見て意味ありげに、

 「あんたが例の吉野君?
弘子がよくあんたのこと話しているよ。」

 と口を出した。

 弘子は顔を少し赤らめた。