夜  話  

「でもね、それでも良いんだ。
あの方への想いの前には、それは僕にとって何の意味も持たないものだし、それにね。
それはもう、託すべき人に託し終えてあったんだ。」


偶然なんだけどね、と晴れやかに笑って言ったカラを引き留める言葉を、もうそれ以上持っていなかった俺は、ただ黙って去っていくカラを見送ることしか出来なかった。


その道行きにはなむけの言葉を贈ることすら忘れて。


「カラの往く道が、せめてカラに優しいものであるようにぐらい言ってやれば良かったよなぁ。」


そんな風に思えたのは、カラが去って随分経ってからだった。