ポケットの恋

「だからほら!この前しつこくアドレス聞いてきたのも、幸日には聞いたのにあたしには聞かないと怪しまれるからってことで聞いてきたのかなと…」
どこか尻つぼみになりながら言った真実を、古谷はちらりと一瞥した。
「アドレス聞くのにそんな小難しいこと考える奴そういないんじゃない?」
いつもとトーンが違う古谷の声に、真実は黙り込む。
「あとね、」
言いながら立ち上がる。
「俺は戸田にはアドレス聞いてない」
「え…」
「じゃ、帰るわ。また来るけどねー」
最後の言葉は茶化す為に付け加えたとしか思えなかった。
真実が何か答える前に、古谷は真実の前を通り抜けていく。
古谷は一度も振り返らず、会計を済ませて店を出て行った。
残された真実は一人、古谷の去った後のテーブルの前で、ぼぉっとしていた。
バイトの先輩に声をかけられて、やっと我にかえる。
慌ててテーブルに布巾を滑らせた時には、何を考えていたのかすっかり忘れてしまった。