ポケットの恋

すぐには声が出てこない。
あれだけのことをしたにしては、自分の立場を気にする辺り自分行為に無神経すぎるだろう。
「…由利ちゃん、気にすることが間違ってると思う」
思わず仮借無しの厳しい声が出た。
居心地の悪そうな顔をして、由利は俯く。
声を掛けずにいると、不意にカウンター裏のカーテンが開いた。
「いやあ、二人して楽しそうな話してるじゃん?」
皮肉たっぷりの口調で、古谷は唇の片側を吊り上げた。
「古谷…」
思わず漏れた声に、返事をせず古谷もカウンターから出てくる。
その足は由利の正面で止まった。「秋田に何したの?」
何の前置きも無しに投げられた言葉に、勢いよく由利の頭が上がる。
「べっ…別に何も…」
「何もじゃないよね?」
「ないよっ!別に良行に文句言われるようなことしてないし!」
「だから、何したの?」
普段通りの口調だが威圧感のこもった声で、古谷が繰り返す。
由利は黙ったまま、目を落ち着きなくキョロキョロさせた。
「南部、モニター見てて。今誰もいないから。ってかどっか行ってて」
古谷がため息まじりに言った。
南部は頷いて、何も言わずに、モニター室に姿を消した。