ポケットの恋

「雅也君?」
控えめな声をかける。
「あ…ごめん。あははなんつーか空気悪くしちゃった感じで」
幸日の方に向き直った原田は決まり悪そうに頭をかくと、じゃあ、と片手をあげた。
「俺行くわ。人待たせてるし」
「うん。…ね、今度ちゃんと南部さんに謝ってね」
幸日が控えめな声のまま言う。
「わかってるってー」
原田は軽い調子で請け負うと、
「じゃ、またねー幸日、真実」と手を振って歩き出した。
幸日と真実は何も言わずにその後ろ姿を見送る。
古谷が椅子の脚を蹴るのと、原田が立ち止まったのは同時だった。「そういえばそこのお兄サン、1番言いたいこと、なんで言わない訳?」
古谷がゆっくりと原田の方を向く。原田は振り返らないまま言葉を続けた。
「真実のこと、そう呼んで欲しくないならちゃんと言ってよ」
古谷の返事を待たず、原田は店をでていった。