それ以来、よしきからは何の連絡もないまま
季節は夏になった。
8月9日はよしきの誕生日だ。
その日かほは、得意のマドレーヌを焼いていた。
甘いものは殆ど食べないよしきだったが
かほの作ったマドレーヌをたいそう気に入り
「これなら百個は食べれる!」
といつも喜んで食べた。
何もしてあげられない代わりに、マドレーヌを焼いて持って行こう…
手紙を添えて、そっと玄関に置いてこよう……
久しぶりによしきの家へと車を走らせる。
見慣れた景色が懐かしかった。
よしきの家が近付くにつれ
かほは急に胸の高鳴りを覚えた。
《ホントは一目会いたい…》
でも勇気がなかった。
拒絶されるのが怖かった。
躊躇する気持ちに比例するかのように
心なしか車のスピードが落ちていた。