かほはよしきに

《子供はいない》

と言ってあった。

また、年齢も30歳と偽っていた。


守るものがあっただけに

なるべく素性を知られたくなかった。


本当のことを話せば

よしきは怒って離れて行くだろう…

一時甘い夢を見させてもらったと感謝し

夫とやり直し

また平凡な主婦となり

籠の鳥のような生活に戻るべきか…



よしきと一緒にいる時は

現実を忘れ、一人の恋する女だった。



恋など何年も忘れていたかほにとって

それは甘美であり

夢であり

もう二度とない、最後の恋だと思っていた。


それを終わらせることは

女を捨てることのような

恐怖にも似た感情で…

いや、それ以上に

よしきを愛する気持ちが強かったのだと思う…



そして・・・・・




かほは夫に

「今はまだ戻る気はない。

もう少し時間が欲しい」

と告げた。


夫もまた

「まだ自信がない」

と言った。


かほは内心安堵した。

《よしきと離れなくていい…》



現実を忘れていたかった。

もう少し夢を見ていたかった・・・・・