Tears〜硝子細工の天使〜


その頃、佳奈子は秀人とどう別れようか、考えていた。


損得勘定も多少働いた。

若い頃、父親に

『ある程度の計算も必要だぞ』

と言われながらも

結婚生活に夢しか抱いていなかった佳奈子は

反対を押し切って、元夫と結婚した。


だが、あれから20年…

粋も甘いも経験してきた佳奈子は

若い時の無知なままではなかった。



それだけに、将来社長の座が待っている秀人と別れてしまうことに

多少惜しい気持ちもあった。



本当に愛していたら

貧乏しようと、苦労しようと

計算など飛んで行く…



かほは、よしきとなら

例えどんな苦労をしても一緒になりたい…


そう思える、唯一の男だった。



よしきと戻れて、共に人生が歩めるなら

秀人が社長にいつかなろうが

よしきについて行きたい…


真剣にそう思っていた。


それだけに、秀人への愛が冷めていた佳奈子にとって

よしきからの連絡は、寄り道こそしたが

この時期にまた出会える運命になっていたんだ

などと、都合のいいように考えては

一人悦に入っていた。