それと、もう一つ
かほが《フリー》という言葉を使った理由…
医療事務の資格を取ったことはよしきも知っていた。
去年のよしきの誕生日の日から
皮膚科への勤務が始まった。
あの赤い車の後ろを泣き叫びながら走って追い掛けた日から、ひと月…
忘れようにも決して忘れることのないよしきの誕生日に
《おめでとう》がてら
その日から皮膚科で働くことを話してあった。
だが、開院して一年の病院で
佳奈子以外は開院当時からのスタッフばかり…
すでに仲間意識がはっきり出来上がっており
佳奈子はいつもかやの外。
意地悪なスタッフに
嫌らしい言い方でしか仕事を教えてもらえない…
患者は少なく、座っているだけだったので
体力的には楽だったが
精神的にビクビクする毎日に
うつ症状が悪化し、三ヶ月で退職していた。
それからずっと仕事をしないで、家にいる。
そういう意味での《フリー》も含んでの言葉だった。
だがそれは、単なる言い訳にしか過ぎないだろう。
かほの中によしきの気を引きたい…
そんな気持ちを含めての
《フリー》だった。

