佳奈子は秀人の家の玄関の鍵をそっと開けた。
罪悪感に胸が痛む。
《どうか、眠っていますように・・・》
秀人の顔をまともに見るのが恐かった。
動揺を悟られたくなかった。
部屋の電気は小さい明かりだけ燈っていて
布団の中で、秀人は丸くなって眠っている。
佳奈子はホッとため息をつくと、秀人の枕元に座り、声をかけようかと随分迷った。
だが、数分前までよしきとあんな会話をしていたことにやましさを覚え
とても声をかけられる心境ではなかった。
何も疑わない無防備な寝顔を見ながら、佳奈子は心の中で何度も謝った。
ごめんね…
ごめんね…
ホントにごめんなさい…
でもやっぱり、私、よしきが好きなんだ・・・
ひでちのことも好きだけど
よしきのことが大好きなんだ…
諦めきれないんだよ・・・・
薄暗い部屋にじっと座ったまま、佳奈子は必死で涙を堪えた。
いつもなら、そっと秀人の隣に潜り込んだだろうが
今日はとてもそんな気持ちにはなれない…
佳奈子は、書き置きを残し、静かに秀人の家を後にした。