実はこれが初めてのキスだったことを、かほは覚えていなかった。
キスというより
外人が挨拶を交わす…
そんな軽いものだったのと
車から降り、両手を広げて近づいてきて
「会いたかった」
と抱きしめられた時点で
まるで自分がドラマのヒロインかお姫様にでもなった気分で
舞い上がっていたせいもある。
後に、よしきから
「初めてキスしたの、何回目に会った時か覚えてる?」
と聞かれ、その時始めて知ったのだった。
それほどまでに、かほはこの恋に酔っていた。
結婚して、子供を産み、平凡に暮らし
恋などもう縁がないと思っていた。
忘れかけていた情熱が
かほの中で激しく沸き上がってくるのを感じた。
見るもの全てが美しく、新鮮に見え
色褪せかけた人生が
輝きを取り戻したかのようで
年齢も立場も忘れ
ただただ恋をする一人の女になっていた。
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