その日、ビルに入るのは三回目。
初めは躊躇してドキドキしていたかほも、今では平気になってしまっていた。
いつもは殺風景な相談室に、その日は小さなテレビが一台用意されていた。
田中が休みだった代わりに安部が部屋に入ってきた。
「実はですね…
佐藤さんが土曜日に出掛けると言っていたので
尾行するために、張り込みしたんですが…
その日山下さんは出掛けなかったんですねぇ」
なんだか責められているようでかほは体が縮む思いがした。
「それで、その5日後にやっと動いたんですよ。
車に発信器を付けてありましたから、どこにいるかはわかるようになってますし…
それまでは殆ど車に乗った形跡はなく、出掛けたとしても近所くらいでしたよ」
――なるほどな…
今までのよしきを想像すれば
あながち嘘ではないだろうとかほは納得した。

