「う〜ん…それはヤバイな、少し離れた方がいいんじゃないか?」
とても深刻な顔でよしきは話す。
それを見てかほは帰ろう、と思った。
自分がいたらゆっくり話を聞いてあげられないだろうし
また聞こえないふりしても、よしきの返答で電話の内容がわかってしまう…
《今日は帰った方がよさそうだな…》
《こんな配慮ができたら、また惚れ直すかも…》
そんな浅ましい計算も正直働いた。
そして、急いで身繕いを調え
携帯やたばこを鞄の中にしまうと
よしきに向かって
『帰るね』
と声に出さず、口まねだけで合図した。
電話で話しを聞きながら、かほの様子を察したよしきは
手を顔の前で立て、謝る仕草をし
《悪いな》
という表情をして頷いた。
かほは笑顔で首を振ると立ち上がり、玄関まで行った。
そして玄関のノブに手を掛けて開けようとした、その瞬間・・・・・
よしきが電話の相手に
思いがけない言葉を発した。
ドアを開ける手が一瞬に凍りつき
かほはその場に立ちすくんだ。
今、なんて言った?
聞きまちがい…じゃ…ないよ…ね・・・・・?

