病室で退屈しているに違いない輝には、決して聞かれてはいけない会話。


「お前さ、そろそろ輝のこと……嫌いになった方がいい」

 しばらくの沈黙を破ったその言葉の意味は、痛いほど分かった。

 再び沈黙が流れ、廊下には靴音と他の話し声だけが響いている。

 私は前々から決心していたことを再び強く胸に刻み、涙を拭って真っ直ぐに和馬を見つめた。

「和馬。私はね……」

 冷酷なのに何故か切ない彼の瞳は、私をしっかりと捕らえている。


「輝と一緒に死んだっていいんだよ」


 それくらい私は輝に恋をしていて、気持ちは簡単に変えられなかった。

 その言葉を聞いた途端、彼は静かに病室のドアを開け、「あっそ」とだけ小さく呟いた。

 その呆気なさに、私はなんて恥ずかしいことを言ったんだと少し後悔する。

しかし、本気であることに間違いはなかった。


 腕の中で、まだ微かな冷たさを保つブドウをじっと見つめる。

再び溢れてくる涙を拭おうとすると、指先から甘い匂いが香った。