重い足取りでリビングへと向かう。

母の声がした。

確かに『輝君』と言っていたため、無視はできなかった。

 普段は二段飛ばしで駆ける階段を、今日はゆっくりと降りる。

途中、弟とすれ違った。

見覚えのないオモチャを抱いて、嬉しそうにしていた。

母の呆れた顔が浮かぶ。

 母はリビングではなく台所にいた。

椅子に座り、ジャガイモの皮を剥いている。

どうやら今夜はカレーらしい。

甘口と書いたカレールウの箱が、圧力鍋の横に置いてあった。

「あ、歩美。冷蔵庫の中にブドウがあるから明日輝君に持っていってあげて。ブドウが好きだったでしょう?」

 またブドウか。

事情の知らない母を恨んでも仕方ないが、込み上げてくる悲しみは私を苛立たせた。

「そんなの自分で持っていけばいいでしょ?」

 そして、私のように悲しめばいい。

 冷たい言葉を吐き捨て、再び自室へ戻った。