視線をドアから輝の方へ移す。

涙はいつの間にか拭われていた。

「歩美かな」

「さっきの話、聞かれてもよかったのか?」

 俺がそう問いかけると、彼は平然な表情で「なんで?」と聞き返してきた。

 その様子を見て、あいつの涙を思い出す。


 輝は、あいつのことを何とも思っていない。

それが嬉しくもあり、悲しくもあった。

あいつの想いは彼に知られないまま、永久に眠ることになってしまうような気がして。


「あいつ……歩美はさ。結構、いい女だと思う」

 気づけばそんなことを言っていた。

「知ってるよ。歩美のことは俺が一番知ってる。ただの幼馴染みの俺に尽くしてくれる優しい子だって」

 窓から吹き抜ける風が、彼の髪を揺らす。

その影から覗く瞳は、とても真っ直ぐなものだった。

 輝は何も分かっていない。

歩美が尽くしているのは、幼馴染みとしての輝じゃない。

しかし、それを彼に言うことはできなかった。


「和馬?」

 心配の色が褪せない瞳に笑いかける。

「何でもない」

 少し、胸は痛むけど……。