しばらく、ゆっくりとした時だけが流れた。

話すことが無くなると、何故か神経は鼻に集中した。

病院特有の臭いが、空気と共に体内へ入ってくる。

何度来ても、この臭いには慣れなかった。

 輝はどうだろう。

きっともう、これが特別な臭いだということすら感じなくなっているのだろう。

だから余計に、外の世界が恋しくなることがあるようだ。


「これ、歩美が撮ってくれた」

 嬉しそうに彼が見せた携帯の待ち受けは、ただの水色をした画像だった。

しかし、これは今朝の空だという。

窓から顔を出し、空を見上げた。

「確かに今日は空が綺麗だ」

 それは画像とは全く異なるもので、もっと果てのない……壮大なものを感じさせられた。