「おっす!」


 いつもどおりの挨拶をして私の隣の席に腰を下ろした章也くんは何事もなかったように鞄を開いた。

「お……おはよう」

 正直言ってこんな展開は想像していなかった。

 昨日の放課後、告白されてから今日の朝の事ばかり考えていた。

章也くんはちゃんと学校に来るだろうか?

 来たとしても今まで通りに話したりだなんて無理だろうな、とか。

 だから、朝の挨拶は私の方から何事もなかったように声をかけてあげよう、そう考えていた。それなのに気が抜けるぐらい章也くんはいつも通りで、混乱しているのは私の方だ。

「おい、一時間目って数学だっけ?」

 探るような私の視線を完全に無視して章也くんはごく普通の口調で私に話し掛けてきた。

あの告白はなんだったんだろう?そう思ってしまうぐらいの自然さで。

「う、うん」

 でも、目が合った時、私は章也くんのいつもと違うところをたった一つだけ見つけた。

 目が赤い。

 夜遅くまでゲームをしてたんだよ、と言われてしまえばそれまでだけど、私は昨日の事が原因じゃないかと思った。

 章也くんが泣いたとは思わないけど、私と同じように今日の朝の事を考えて眠れなかったのかもしれない。