もしかして、章也くんは私の心配をしていてくれたのだろうか?

 それを確かめようとした時、章也くんは私に背を向けた。

「話、聞けたし、今日のとこは、帰るわ」

 突然の帰る宣言に引き止めることも出来ないまま章也くんの背中を見送っていると、公園の入り口のところで章也くんが立ち止まった。

「麻生」

 章也くんは振り返らずに私の名前を呼んだ。

「何?」

「俺たち若いんだ。あの人はどう見ても二十歳過ぎているだろ?あと十年経ったらハゲたオヤジになっているかもしれないぞ」

「……」

 一体何を言いたいんだろう?

「それに引きかえ俺は十年後も若々しい二十代だ」

「…そうだね」

「俺にしておけよ!待っていてやるから」

 言いたいことだけ言って章也くんは公園から走り去っていった。私は呆然と章也くんのいなくなった公園の入り口を見つめていた。

 章也くん、耳の後ろまで赤かったな。

 そんな事を思いながら自然に笑いがこみ上げてきた。

 章也くんは正直者なのだ。単純という言葉に置きかえてもいい。

 だけど、その単純さが今の私には大きな救いになった。

 十年後のことなんて一度も考えた事なかった。