「昨日、ママに吉田さんと再婚するつもりだって言われたの。それを聞いたら何でか泣いちゃった。それを見てママは私が再婚に反対していると思ったみたい。私も泣くつもりなんかなかったんだよ。けど気づいたら……」

「泣いていたんだ?」

「うん」

「体は正直だよなあ」

章也くんはしみじみ呟いて空を仰ぐ。私もそんな章也くんの仕草につられたように空を見上げてみた。オレンジ色だった空はくすんだ灰色になりかけていた。

「嘘に巻き込んじゃってごめんね」

 涙がこぼれないように上を向くって本当なんだなあ、と思いながら私は謝っていた。

「いいよ。大体、事情は分かったから」

 章也くんはちょっぴり呆れたように言って私の方に顔を向けた。

私はわざと上を向いたまま章也くんの視線を受け止める。

「麻生って結構、頑固なんだな。俺、知らなかったよ」

「頑固なの……かなあ?」

 私はゆっくりと首を動かして章也くんを見た。

章也くんの表情は沈みかけた夕日を背にしていたせいか影になって分からなかったけれど、何となく優しく微笑んでいるような気がした。

「頑固も頑固。ガンコオブクイーンとこれからは呼んでやろう」