困ったように私の顔を見てからママの方を振り返って軽く会釈をした。

「どうも」

 私は心の中で呪文のように一つの言葉を繰り返し唱える。

 落ち着いて。落ち着くのよ。

「……岩田章也くんって言うの」

「岩田章也……くん。私は遥日の母です。よろしくね」

 ママが知りたいのはそんな事じゃないのよ、この子の存在は何?

 ママの目がそう私に語りかけている。

 私は吉田さんの方に視線を転じた。

 吉田さんは私と章也くんが一緒にいるのを見てどう思っただろう。それを何よりも知りたかった。

 吉田さんはいつもどおり優しい表情で微笑んでいた。それは大人が子供に対して大らかに見守っているのを感じさせるものであって、それ以上でなければそれ以下でもない。

 ああ、それが答えなんだ。

私は吉田さんにとって『子供』という存在でしかない。好きで付き合っている人の『子供』で年齢もずっと年下の『子供』。そして絶対に恋愛対象になることのない存在だ。

「彼氏なの。岩田くんは私の彼氏」

 ギョッとしたように章也くんが私の顔を見る。

 こいつ、何言ってるんだ! と言いたげだが、それを口には出さなかった。

 今はそれが何よりもありがたい。