「なあに？あらたまって」

　私がスプーンをお皿に置いて顔を上げると、ママの幸せそうにほころんだ顔が目の前にあった。

「ママね、再婚しようと思うの」

　一瞬の間があいた。
　私はまじまじとママの顔を見つめた。聞き違いだろうか？

「え……っと。ごめん。よく分からなかった。もう一度言ってくれる？」

　多分、よくわからなかったと言ったのは私なりの『逃げ』だったのだろう。その言葉を口にすることでママが口にした言葉が別の言葉になるんじゃないか、という淡い期待が胸の中にあったのかもしれない。

「ママね、再婚するかもしれない」

「再婚？」

　声が裏返ってしまった。

　落ち着こうとすればするほど私の頭の中は混乱し、しまいには再婚の意味がよく分からなくなるほどだった。

「そうよ」

「誰と……？」

そんなの聞くまでもない。

ママと付き合っているのは吉田さんだ。相手は吉田さん以外には考えられない。

それでも確かめずにはいられなかった。

「もう遥日ちゃんったら、いやね。あっ君に決まっているでしょ」

　ママは吉田さんをあっ君と呼んでいる。これはもう逃れようのない現実だ。

「吉田さんと結婚するの……？」