ふわりと微笑んで私に吉田さんは私に左手を差し出した。その仕草は自然で、私を子ども扱いするでもなく対等に扱っていた。

 八歳も年下の私を、だ。

 まるで吸い込まれるように澄んだ吉田さんの瞳を見つめていたら、何が何だか分からなくなって、気付いたら私は吉田さんの差し出した手を握り締めていた。

 吉田さんの手は大きくて、あたたかかった。

 吉田さんの手を握りながら私は体中が熱くなるのを感じていた。こんな事は初めてだった。

胸が痛くて切なくて何だか泣きたいような気持ちになりながら、それでもずっとこうしていたいような気持ち。

 今ならわかる。

 私は吉田さんの笑顔を目の当たりにし、そしてあの柔らかい声を耳にした瞬間に心奪われていた。

 あの朝、ママに『恋人』に会ってくれと言われた時から警戒していた。

ママを騙そうとしている悪い男だったら私がしっかりしなくちゃ、とまで覚悟して会ったのに、その事をすっかり忘れて私は吉田さんの事が大好きになってしまった。

はじめはママの恋人として見ているつもりだったけど、それが違うって事に気がついたのは、本当にすぐの事だった。

ママと吉田さんが仲良くしていると気分が悪くなるのだ。