私はママに微笑みかけながら玄関を入ってすぐの右側にある六畳の部屋に入った。

 部屋に入ると私は後ろ手にドアを閉めて溜め息を漏らした。

 入ってすぐに几帳面に整理された学習机に近寄った。机の上に置かれたピンクの写真たてに手を伸ばし、じっと見つめる。

写真たての中には私を中心にしてママと笑顔が素敵な男の人が写っていた。

ここは私の部屋だ。

 私はここでしか本心をさらす事が出来ない。

「吉田さん……」

 写真の中で微笑む男の人の名前を呟くと胸が締め付けられるような想いにさいなまれた。

 呟きに込めるのは密やかな想いだ。

 吉田厚志さん。

 彼と出会ったのは一年前の事だった。

 初めて出会った時、吉田さんは笑顔でこう言った。

『君が実加さんの娘さん?』

 笑顔は柔らかくてどこまでも爽やかな人だった。

後からママに吉田さんが二十歳になったばかりの人だと聞いたけれど、中学生になったばかりの私の目には実年齢よりももっと若いように見えた。

『そうです』

 警戒するように答えた私に吉田さんは一瞬困ったような顔をした。それでも笑顔を絶やさなかった。

『遥日ちゃん、僕は君と親友になりたいな』