ピィーンポォーン



「いらっしゃいませー。」



聞き慣れた入店音、決まり文句を背に、僕らはそそくさとトイレに向かった。



昇は普通の男性用、僕はもうひとつある男女共用に、まるではじめから決められていたかのように素早く入った。



そして2人ほぼ同時に用を足すと、2人で店員に目を合わせないように素早く店の出口に向かう。



深夜3時という客がなかなか来ない時間に、徒歩で来店した客がトイレを借りただけで帰っていく。



明らかに「意味が分からない客」である。



それを僕も昇もよくわかっていたので、存在感なく店から消えてしまいたかったのだ。





ピィーンポォーン





この時ばかりは、店のベルがひどく忌まわしかった。