もつれる足を懸命に動かし、わたしは廊下を走りぬけた。

リビングに駆けこみ、ソファに置いてあったポーチを手にしたところで、わたしはミスを犯したことに気づいた。


あのまま廊下を突っ切って玄関から外に逃げるべきだったのだ。

裸同然の格好でも、今はそんなことを気にしている場合じゃない。

リビングを出て玄関に向かうべきか――


「ゥオオオイッ!」


般若みたいな顔をした素っ裸の円城寺くんが、リビングの入り口に立ちはだかった。


「ひ、ひえ……」


わたしはテラスに向かった。

そして走りながら咄嗟にひらめいた。

テラスの柵を越えて外に逃げればいい――。


無我夢中で柵までたどり着き、手すりに足をかけて乗り越えようとすると、向こう側の地面が見えなかった。


「えええ……?」


身を乗りだして下を見ると、テラスは切り岸の上にあり、飛び降りて無事でいられるような高さじゃなかった。


振り返ると、円城寺くんは今まさにテラスに出ようとしている。


とにかく彼から離れたい一心で、わたしはテラスの端へと走った。


熱帯魚の部屋――

もうそこしか逃げ道はない。


でも、ドアの鍵が開いているとはかぎらない。


「ていうか、開いてる気がしないんですけど!」


すがりつくように、わたしはドアノブをつかんだ。