ドーベルマンだった。

低くうなりながら、鋭い牙をむきだしにして、あきらかにわたしのほうに向かってきている。


「ひええっ!」

「ハービー! シット! シット!」


円城寺くんが命令すると、ドーベルマンはすんでのところで動きを止めて、その場にお座りをした。


「ごめんね、驚かせちゃって」

「ひ、ひい……」

「奥の部屋に入れてくるから、ちょっとここで待ってて」


犬がいなくなるまでのあいだ、わたしがずっと全身を小刻みに震わせていたのは、小学二年生のころにお尻をかみつかれて以来トラウマになっているからだ。

チワワに追いかけられて、どぶ川に飛びこんだこともある。

そんなわたしにとって今のできごとはあまりにもショッキングで、案の定少し失禁していた。


しばらくして円城寺くんが戻ってくると、わたしは一階のリビングに案内された。


部屋はテニスコートくらいの広さで、生活感のないショールームみたいな雰囲気だった。

正面の壁に大きなガラス戸があり、その向こう側はテラスになっている。

外は真っ暗でなにも見えなかった。


「そのへんに座ってて」


ツヤツヤの高級ソファを指さして彼が言った。