「そりゃ、あたしは砂名ねぇさまみたいに美人じゃないし、可愛くもなければ、色っぽさもないんですもん……。パタパタする意外にできることはありません。」
しょぼんとうなだれる砂希を、砂名は呆れた様子で見やり、そっと頭を撫でてやった。
「あんた、私を誰だと思ってるの?この麗蘭で一番の人気を誇る砂月よ?」
砂月とは砂名の源氏名で、だいたいは店の主が本名をなじってつけてくれるものだ。砂希は名がなく、砂名の文字をひとつ貰い、砂名本人がつけた名だ。
「砂希?女将が何故一番の私の側使えにしたかわかる?」
「そんなのわかるわけ……」
砂名はその言葉を遮るかのように俯いた砂希の両頬に手をあて、上を向けさせた。
「砂希が側仕えの子たちの誰より綺麗な顔をしてるからよ。心も顔も、どの子たちよりおまえが一番綺麗。」
「そんなこと……」
「あるわよ。それにおまえは私が見込んだ子よ?将来私よりいい女になるわ。だから、いつまでも下ばかり向いてないで、上を向きなさい。いつか見えるものも見えなくなるわよ?」
ね?と微笑むと、砂希も沈んでいたことが嘘のようにニッコリと笑みを浮かべた。

