春の夜とはいえ昼間とは大分違う外の気温。
微かに残っている桜が月光に反射し、美しい夜桜を魅せている。
彼の二、三歩後ろを歩きながら桜を見上げる私は、りっちゃんの言葉を思い出していた。
『柚先輩と彼氏さんって、もうヤっちゃいましたか?』
ち、違う違う。今はそんなこと考えちゃだめだって。
動揺したら翠君に変に思われちゃう。
それに、こんなこと考えてる私っておかしいのかな……
ザ、ザ、と小石の細道を抜ければもうすぐ見える私の家。
翠君が足を止めたのが、家に着いた合図だった。
「お……送ってくれてありがとう」
後ろではなく隣に足を揃え、視線は合わせず御礼を告げる。
「別に、いいけど」
―――びくっ
隣に立ったからか、辺りが静かだからか……正論は分からない。
いつもより響いて聞こえるその声が、私の身体を更に火照らせる。
恐る恐る上げた目線に映った無表情の顔。
……ねえ、私は、翠君にとってどんな存在かな。
聞きたいことは沢山あるのに、言葉としては出てきてくれないんだ。
「髪」
「え?」
フイに飛び出た単語に声を上げる、と。

