「もう暗いんだし、女の子を送るのはマナーだよ」
と、言いながら翠君を立たせる彰宏さん。
私と同じ制服姿の翠君は、深く瞼を閉じながらテーブルに手をつき立ち上がる。
つられて私も立ち上がると一人座っている彰宏さんが「またね、柚ちゃん」と、明るい笑顔を見せてくれた。
なんとか笑い返し、既に和室を出ている翠君の後を追う。
太陽が沈んだせいかさっきよりも廊下は冷たく感じた。
「……あ、の……私、一人で帰れるよ?」
玄関でローファーを履いている彼に控えめに言えば、こっちを振り向いたため、今日初めて視線が交わった。
どくんっと跳ねる心臓は嫌なくらい素直。
前髪の間から覗く切れ長の瞳が私を捉えた。
「いいから、早く」
―――翠君と話すのって、あの日以来だ。
女の子の電話が、あった時。
結局何も分からないまま日だけが過ぎていく。
私達の関係も、曖昧なまま。

